- テンガードホールディングスリミテッド
スタッフコラム
[2026年9月28日]
最近、オフィスで少し不思議な光景を見るようになった。
以前、顧客が来ると、最初の質問は決まっていた。
「どの株が一番早く上がりますか?」
ところが今は違う。海外からの顧客を中心に、最初にこんな質問を受ける。
「Rickyさん、もし何か起きたら、私の家族のお金はどうなりますか?」
世界の空気が変わった。
中国と日本による尖閣諸島を巡る応酬。長期化するロシア・ウクライナ戦争。中東で繰り返されるミサイルの応酬。中国とインドの国境で続く緊張。
かつて「安全」と考えられていた場所まで、安泰とは言い切れなくなった。米国とカナダは関税を巡って対立し、英国でもイングランド、スコットランド、北アイルランドを巡る議論が続いている。
世界はいつの間にか、「地球村」から「地球村の町内会による大げんか」に変わってしまったようだ。
以前は「協力」がキーワードだった。
今は「駆け引き」や「交渉力」が前面に出ている。
私は顧客に、いつも二つのことを話している。
一つ目は、争いが終わったとしても、借金まで消えるわけではないということだ。
世界の主要国で、巨額の債務を抱えていない国がどれだけあるだろうか。
米国の政府債務は35兆ドルを超え、日本の政府債務残高はGDPの260%に達する。財政が比較的健全とされてきた欧州でも、財政余力には限界がある。
政府にはお金がない。
それでも、国民には成果を示さなければならない。
では、人々を最も早く一つにまとめるにはどうするか。
対外的に強硬な姿勢を示すことだ。
歴史を振り返れば、国内の問題を外に向ける方が、国内で増税を説得するより簡単な場合がある。
二つ目は、昔の戦争は戦車で戦ったが、現代の戦争はあなたの財布でも戦われるということだ。
現代の紛争に、必ずしも銃やミサイルは必要ない。
今日は中央銀行の外貨準備を凍結する。
明日は国際決済網へのアクセスを制限する。
その次には、半導体などの輸出を止める。
ロシア・ウクライナ戦争が改めて示したのは、資産について「何を持っているか」だけでなく、「どこに置いているか」が重要だということだった。
お金そのものが、地政学上の武器になり得る時代になった。
だから私は、いつもこう言っている。
問題は「紛争が起きるかどうか」ではない。
どのような形で、どこに起きるのか。
それを正確に予測することはできない。
だからこそ、備えておく必要がある。
強気相場では、誰もが株の神様になったような気分になる。
しかし、乱世では違う。
亀になることを覚えなければならない。
多くの顧客はいまも、攻めの姿勢でこう聞いてくる。
「今、どこの国の不動産が一番上がりますか?」
私は逆にこう尋ねる。
「もし明日、あなたの国の通貨が20%下落したら、あなたの家と銀行口座はどうなりますか?」
地政学の時代の投資の黄金律は、突き詰めれば一つだ。
元本を守ること。
そして、そのための最も古く、最もシンプルな方法がある。
「卵を一つのカゴに盛るな」。
ただし、これからの時代は、もう一歩踏み込んで考える必要がある。
卵を一つの国に集中させないことだ。
これは、移住を勧めているわけではない。
まして、恐怖に駆られて資産をすべて海外に移せと言っているわけでもない。
私が言っているのは、家族の資産の中に、いざという時の「救命ボート」を用意しておくということだ。
例えば、総資産の10〜20%を、政治・経済のサイクルが異なる別の国や地域に、法律や税務を確認した上で適切に分散する。
この数字には、意味がある。
10%未満では、心理的な安心感にとどまる可能性がある。
本当に何かが起きたとき、「これだけでは足りなかった」と気づくかもしれない。
例えば香港に1000万ドル相当の資産があって、シンガポールに20万ドルしかなければ、それは移動するための資金にはなっても、生活を立て直すための資本としては十分とは言えない。
一方、30%を超えてくると、今度は別の問題が生じる。
毎日のように為替レートが気になり、自分の資産配分そのものに振り回される。
本来、道具であるはずの分散投資に、自分が振り回されてしまう。
だから、10〜20%という考え方が出てくる。
この海外資産には、三つの役割がある。
もしA国で資産規制や外貨規制が導入されたり、金融システムが凍結されたりしても、B国にある資産は異なる制度の下にある。
家族の生活費や子どもの教育費まで、一夜にしてすべて失われるリスクを抑えることができる。
これは自国を空売りすることではない。
ヘッジだ。
すべての資産を香港ドルや人民元など一つの通貨に集中させれば、その通貨の価値に家計全体が左右される。
一部を米ドル、スイスフラン、シンガポールドルなど異なる通貨の資産に分散すれば、購買力の変動を抑える余地が生まれる。
乱世で最も価値があるものの一つは、選択肢だ。
海外に持つ10%の資産が生み出すのは、単なる利息ではない。
必要になったとき、もう一歩踏み出すための「自由」である。
使わなければ、それでいい。
しかし、本当に必要になったとき、その選択肢には大きな価値がある。
ある顧客が、こんな話をしてくれた。
「家に消火器を置くのは、必ず火事が起きると思っているからではありません。消火器があるからこそ、安心して眠れるのです」
まさにその通りだと思う。
地政学とは、まだ起きていない火事の火種なのだ。
だから、もう「どの株が2倍になりますか」とだけ尋ねるのはやめよう。
この時代に考えるべき投資の問いは、もっとシンプルだ。
「世界がこのまま争い続けたとしても、誰が勝ったとしても、どうすれば私の家族だけはすべてを失わずに済むのか」
まず、安定を求める。
その次に、成長を求める。
守りを固めてから、攻める。
それが、地政学リスクの高まる2026年における、投資の黄金律ではないだろうか。
証券取引委員 (SFC:Securities and Futures Commission) の Type 4, 9 のライセンスを取得しているファイナンシャルアドバイザーです。
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